東京高等裁判所 昭和47年(う)2817号 判決
被告人 石塚次郎
〔抄 録〕
論旨は、本件の公訴事実として選択的に掲げられている注意義務違反の内容は、助手の細川を降車させ、その誘導に従うべきものとされているのに、原判決はこの点につき、右細川に後方の安全を確認して貰う措置をとるべきであったと認定しているが、このように訴因として掲げてある注意義務違反の内容と異なる義務違反を認定するのであれば、訴因変更の手続をするなどの適切な措置によって審理、判断すべきであるのに、原審は右の手続を経ないで前記のとおり認定判示したのであるから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。
ところで、本件公訴事実として選択的に掲げられている注意義務違反の内容は、自車の助手席に同乗していた細川正夫をして降車させたうえ、後方の安全確認を尽くさせ、同人の誘導に従うなどして後退すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠ったというものであるところ、原審がこの点につき訴因変更の手続などをとることなく、自車の助手席(左側)に同乗していた細川正夫に後方の安全を確認して貰う措置をとりつつ後退すべき業務上の注意義務があるのに、交通閑散であったことに気を許してこれを怠ったと認定判示していることは、記録に徴しこれを認めえられるけれども、訴因として掲げられている注意義務違反の内容と原判決が認定した注意義務違反の内容とは、その前提となるべき基本的事実関係を同じくし、その相異点は、訴因に含まれた事実のある構成部分の態様に関するものにすぎず、いずれの場合も、被告人の注意義務としては要するに、当該具体的状況下において自動車を後退させるにあたり、同乗の助手をして後方の安全を確認させ、危険の発生を未然に防止すべき方法を講ずることにあるのであるから、前記のような訴因につき、前記のような注意義務違反を認定するについては訴因変更の手続を要しないものというべく、しかもこれがため被告人の防禦の利益を侵害するおそれもないと解すべきであるから、原判決が訴因変更の手続を経ないで右のような注意義務違反を認定判示した点に所論のような訴訟手続の法令違反があるとはいえない。論旨は理由がない。
(石田一 菅間 柳原)